見切り発車でもOK!趣味の着付けが作ってくれた私の“アイデンティティ” #dualwork

30代を過ぎて、どんどん出世する人がいる一方で「なかなかマネージャーに選ばれない…」など、キャリアの悩みを抱えるビジネスパーソンは多いのではないでしょうか?

そんな中、着付師/着付講師の佐々木智恵さんは「複業があったからこそ、本業では手に入れられなかったアイデンティティを獲得できたんです」と語ります。

佐々木さんは、外資系の化粧品メーカーに務めながら、2010年から着付けサロン「きものぼーて」を運営。現在は独立し、国内・海外問わずお客様の着付けと、着付師になりたい人を指導する着付講師をされています。

着付師/着付講師として活動することで、本業に対する向き合い方がどのように変化したのか。その変遷とこれからを伺いました。


佐々木智恵(ささき ちえ)
お笑いとワークアウトと洋服と着物と本と映画とお料理とビールとワインと、大好きなことが一杯。「会社に行く暇がない」が口癖の着付師・着付講師です。会社員として仕事をしながら身につけた着付けのスキルで、着物の普及のために平日夜と週末に着物の先生として活動しています。主にプライベートレッスンなので一人一人に合わせて丁寧に時間をとって教えています。本業の経験も活かしてコーディネートやメイクの相談、そして楽しいおしゃべりタイムを提供しています。 綺麗で楽しい時間を一緒に過ごたいと思っています。
きものぼーて:https://kimono-b.tokyo/
Facebookはこちら

 

もっと多くの方に着物の魅力を広めたい!

──今日は素敵な着物をお召しになられていますね!智恵さんは着付師としてご活躍されていますが、いつ頃から活動を開始されたのでしょうか?

佐々木:着付師として複業を始めたのは2010年ですね。厚生労働省から副業解禁の発表がされたのは2018年ですから、それよりもずっと前から活動していました。

当時は「着物をとにかく広めたい!」という使命感と湧き上がる情熱から、会社からどう思われるかを気にする余裕もなく見切り発車で始めてしまいました。

もともとは、弟の結婚式で着付師の方に着物を着せていただいたんです。その時に「着物はこんなに楽しいものなんだ!」と気づいてしまったのが着物を本格的に始めたきっかけです。

ただ、着物を着るために毎回着付師を呼ぶのは時間もお金もかかって不便だなと感じていました。そこで、なんとか自分で着られるようにするために、2006年から着付教室に通い始めました。

──その頃から着付師になりたいと思っていたのでしょうか?

佐々木:初めは「自分で着物を着られるようになりたい!」と思っていたくらいでした。ところが習っているうちに「着物を着ることがこれほど素晴らしいものなら、もっと広めなければいけない!」と強く感じてしまったんです。そこで、着付師になろうと決意しました。

実は、着付師に必要な資格は特に存在しないんですよね。だから、知識さえあれば誰でもすぐにでも始めることができる仕事の一つです。それでも、私は師範の免状を取ることを決意し、会社と並行して3年間勉強し続けました。免状を取れることが現実的になって、自分の着物教室を持とうと考えていたのもその頃ですね。

ただし、免状を取得できたからと言って、それだけで人に教えることはできません。人に教えるとは、つまり着せ方を客観的に説明することも必要になるからです。だから、先生にお願いして自主的に「着せ方の教え方」も教わっていましたね。 

複業したことで、本業への“熱意”が再加速

──人に着せたり教えたりすることは、難しそうですね。特に、最初に着付けを担当された時は緊張したのではないでしょうか。

佐々木:そうですね。初めて仕事として着付けをしたのは、成人式のお客様でした。ただし、最初なので報酬はいただかず、先生のもとで何十人と着付けを行うことで経験を積みました。その時は、クレームが来るんじゃないかと、次の日まで緊張して…。でも、まったくありませんでしたね(笑)。

着付師として上達するには、多くの人の着付けを行うこと。痩せ型やぽっちゃり型など千差万別の体型の方々を多く経験し「誰が来ても着付けができる状態に持っていく」ことを念頭におきました。一時期は、土日を返上して着付け師の仕事に励んだりしていました。

実は筆者の成人式の前撮りも、佐々木智恵さんに着付けていただきました。

──本業を持ちながら着付けに時間を割くことは大変だったのではないでしょうか? 

佐々木:本業に長く従事していた経験と、仕事をテキパキとこなすスタンスがあったので、特に問題なかったですね。むしろ、着付けの仕事をするようになって、より本業にモチベーションが湧き、取り組むスピードが上がりました。

──むしろ、仕事が速くなったんですね…!

佐々木:複業しながら気づいてしまったんですよね。「会社にいても、全員が昇進できたり、やりたい仕事をやれるわけじゃない」と。でも、仕事そのものは楽しかったから、別の場所で自己実現をしながら長く働きたいと思ったんです。

そんな時にたまたま着物に熱が入り、複業を始めたことで自由を手に入れられた。本業のおかげで複業を自由にできていることにも気づいて、逆にもう一度、一生懸命に働くモチベーションが湧いたんです。

国際的なつながりを経て、本業では得られなかった経験を獲得

──ちなみに本業に取り組みながら、土日や平日の夜に着付けの仕事をされていたのでしょうか?

佐々木:これはラッキーだった部分もあるのですが、実は着付師の仕事は昼の仕事にバッティングしないことが多かったのです。

例えば、学校の卒業式・入学式のお母様の着付けは概ね会社の始業前に終えられますし、結婚式はほとんどが週末なので会社で働く時間とぶつからないんですよね。他にも、業務後の平日の夜でも着付けのプライベートレッスンは、習いたい人がいれば対応していました。

だから、着付けするチャンスは沢山ありましたし、本業に影響を与えることはありませんでした。最近は独立したので、平日日中でも着付けが可能になり、お宮参りも引き受けられるようになるなど、少し仕事の環境は変化しています。

──着付師の仕事は、本業を持っている方でも向いているんですね。ちなみに、当初はどのように集客を行っていったのでしょうか?

佐々木:最初は友人の着付けからはじめました。そこから、友人経由でご紹介を頂いて仕事のチャンスが広がっていきました。1回1回の着付けを真面目に取り組むことで、口コミが広まりお客様を獲得できるようになりましたね。

あとは、着付けしている様子や着物を着た姿をFacebookにアップしたり、ブログに書いたりするなど「自ら発信する」ことでご紹介をいただきやすい自分でいるようにしていました。

──特に印象的だった仕事はありますか?

佐々木:これまで依頼された中で一番印象的だったのは、レバノンで行ったウェディングパーティーの着付けですね。こちらも友人のつながりでご紹介をいただき、一緒に飛行機に飛び乗って現地に向かいました。中東の街でのパーティーに参加される企業の日本人スタッフに着付けをしたのは、良い思い出です。

外資系企業で働いていましたが、着物を通して国際的な活躍のチャンスをいただけたのは、本業ではできなかった経験です。

レバノンにて撮影。右端が佐々木智恵さん。Facebookより

 ──非常に素敵な体験ですね。実際に着付師として仕事をされている中で、楽しいと感じる瞬間はどんな時でしょうか?

佐々木:やっぱり着物を着せた後の姿ですね。ちょっとしたお買い物に行く姿だったお母様が急にピシッとしてかっこよくなる。あるいは、お母様やお祖母様が着物を来て、それを見た家族が喜んでいたりすると嬉しいです。子供が七五三で着物を着ている姿を見ることも、すごく癒されますね。

とにかく仕上がった時がすごく楽しい

本業と並行して着付師をするのは大変と思われがちですが、その楽しさがあるから着付けの仕事を苦だと思ったことは一度もありません。

複業を通して、自分だけの“アイデンティティ”を獲得する

──着物や着付けを通して得られた経験が豊富にありそうですね。

佐々木:そうですね。やっぱり本業を長く続けていると、どんなに仕事を頑張っても天井が見えている部分があるんです。特に大企業で勤務する場合、一生懸命やっても昇進し続けることはあまりないので、個人としての変化を感じづらいと思うのです。

逆に、複業を通して一番変化したことは「人脈の広がり」です。着物を通していろんな人と出会って新しい友達ができました。さらに収入もプラスになるので、活動範囲も広げることができました。

これらの活動を通して、勤務先の会社だけでは作れなかった『自分のアイデンティティ』を獲得できたと思っています。

──自分だけのアイデンティティを得られることは非常に重要ですね。他にも複業を実践して得られたものがあれば教えてください。

佐々木:コーチングスキルやセルフブランディング、マーケティングなどです。これらはすべて着付師として活動するために自然と身につけたことですが、途中から意識して学ぶようにしていました。それが転職のアピールにも活かされているのを感じています。

私はいま独立していますが今後、再就職も考えています。

もともと外資系企業にいたにもかかわらず、あまり英語を使う機会がない部署に所属していたんです。転職時の面接などで「英語を使って仕事をしていましたか?」と聞かれたときに、「本業では英語を使っていなかったものの、着付師の仕事で使っていました」とアピールすることもできました。他にも「着付師を育てる授業で、これだけの人をコーチングしてきたスキルがあります」と言うことができました。その点が奏功していると言い切れるか?分かりませんが、高く評価されて、書類も面接も通過しています。

──複業することによって、補えるスキルもたくさんあるんですね。

佐々木:どうしても会社の看板があると自分をアピールしなくても済む機会が多いんです。だからこそ、 複業でセルフブランディングの仕方を身に着けたり、自己アピールのスキルを高めた方が良いと思います。それは長期的に自分自身を救うこと、そして誰かを助けられることにも繋がります。現役を続ける以上、持って損のないスキルだと言い切れますね。

先程からお伝えしている通り、大企業になればなるほどキャリアの限界が見えやすいように感じます。同期のあの人はマネージャーに昇進したのに自分は平社員のままだと絶望してしまう人もいる。だけど、複業があれば別のキャリアで、自分自身のプライドの拠り所を築くことができるんです。 

だからこそ、複業の持つ力とその可能性をもっと多くの人が知ってくれたら嬉しいですね。

──いいですね「複業の持つ力」!その魅力をDUAL WORKとしても伝えていけるように、がんばります!ありがとうございました!

佐々木:こちらこそ、ありがとうございました!!

 

編集後記

インタビュー中、終始朗らかにお話をされる佐々木さん。さらりと言ってのける大胆で面白いエピソードの数々に、「趣味を本気で仕事にして楽しむ」姿勢を見ました。楽しみながら仕事をすると、周囲の雑音は気にならない。これは複業成功者によく聞くフレーズです。成功する理由は「楽しいから、夢中になった」というシンプルなもの。楽しんでいるからこそ、周囲の人から応援される。そんな好循環があるのだと思います。

実はDUAL WORKの過去記事「フリーランスが一生仕事に困らない、営業の極意」は、佐々木智恵さんの実体験なども入れて、ブラッシュアップしてきた記事です。フリーランスとして仕事をする以上、一つの成功法則として、多くの方にも適用できるものと考えています。

夢に近道はないけれど、ストイックに自分にちょっとの負荷を掛けられる人だけが、幸せな複業を手に入れることができます。本業も疎かにすることなく、全力で複数の仕事に向き合って行きましょう。

きものぼーて:https://kimono-b.tokyo/
Facebook: https://www.facebook.com/gattocie

 

取材・執筆:大畑 朋子
編集:新井 勇作
デザイン:中山 亜希
写真:ONE PHOTO  (撮影協力:渋谷QWS)

 

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