ミレニアル世代・Z世代には当たり前になりつつある複業という選択肢ですが、まだまだ複業を容認していない企業が多いのも現実です。そんな中、今回は複業研究家として活動されている西村創一朗さんにClubhouseで公開インタビューをさせていただきました。
2013年に複業を始められた西村さんは2014年から複業研究家としての活動をスタート。2018年には「複業の教科書」も出版されています。以前ご紹介した記事「「複業を始めるぞ!」と思い立ったら? 最初に読むべき基礎書籍3選」でも書籍について触れていますので、よろしければご参照ください。
西村さんが複業を始められたきっかけ、そして日本における複業の変遷とこれからの複業について、編集長の新井が色々と本音を伺いました!ぜひ最後までお読みください。
西村創一朗(Twitter:@souta6954) 複業研究家/HRマーケター。『複業の教科書』の著者。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。LinkedIn認定インフルエンサー。Anker公式アンバサダー。 2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。プライベートでは中1長男、小4次男、年長長女の3児の父、NPO法人ファザーリングジャパンにて最年少理事を務める。詳しいプロフィールはこちら |
複業は自分の在り方を磨いていく手段
──まずは西村さんと複業の関係について教えてください。どのような経緯で複業をスタートされたのですか。
複業を始めたのは社会人3年目の時です。当時(2013年)は企業の96%が複業を禁止しており、新卒で入社したリクルートキャリアはその頃には珍しい、複業可能な会社でした。
事業開発の経験を本業で積みたかったのですが、入社して配属された部署は営業部門で、営業部門から事業開発の部門に異動するのは容易ではないと知ったことが複業を始めたきっかけです。「新規事業部門への異動」という目標を実現するために、ただ「新規事業がやりたいです」と願望を口にするだけではダメだと思い、プライベートで複業として事業開発に挑戦してみることにしました。小さくてもいいから何かやってみようと思い、メディア事業で複業をスタートしたのが私の複業キャリアの第一歩です。
──実際に複業を始めてみていかがでしたか。
入社3年目の5月に複業を開始し、7月頃に人生で初めてバズる経験をしました。そこからどんな記事であればたくさんの人に読んでいただけるかの感覚が掴めるようになってきて、月間10~20万PVのメディアにまで成長させることができました。
結果的に複業での活動がきっかけとなり、その後新しくできた新規事業部門に希望通り異動となったのは、ある種狙い通りではあったのですが、「まさかこんなにすぐに実現するとは!」と驚きでしたね。
──複業家として活動を始めたのはどのタイミングだったのでしょうか。
複業をしたいという友人と話すことがあったのですが、会社から複業を禁止されているためできない人が多いことを知りました。当時は複業を容認する会社は3.8%しかない時代でしたから、無理もありません。複業を実践することで、本業では得られないスキルや経験、知識やネットワークが得られ、本業にとってもプラスなことがたくさんある、ということを私自身が複業を実践してみて強く実感しました。一方で、複業という働き方の可能性に多くの企業が気づいていない。「複業」という新しい働き方を世の中に広めるのが自分の使命ではないかと思い、2014年から複業研究家としての活動を始めました。
──西村さんは「副業」ではなく「複業」を使用されていますが、複業とは何のためにするものだとお考えですか。
複業は自分の在り方を磨いていく手段だと考えています。副業はサブという補助的な意味が強く、お小遣い稼ぎのイメージがあることに違和感を感じていました。お金はもちろん大事で、仕事に対していくらもらえるかが自分自身の価値に対する通信簿のように思っています。でも、そのためだけに仕事をやっていた訳ではなかったからです。doing(何をするのか)よりもbeing(どう在りたいのか)を大事にしていることが伝わるベストな言い方はないかなと考えた結果、副業ではなく「複業」という単語を使うようになりました。
日本の複業は今、幻滅期にいる
──2013年は複業禁止が当たり前の時代だったという話がありましたが、現在はいかがでしょうか。この数年で複業に対するイメージは変わったと感じられていますか。
振り返ると複業のイメージを大きく変える出来事は2016年から2年ごとに起こっています。そして複業の認知度と捉え方はガートナー ジャパンが発表したテクノロジーのハイプ・サイクルに似ていると、個人的には感じています。
──具体的に2年ごとにどのような出来事があったのでしょうか。
2016年以前は複業といえば、サイボウズ株式会社やヤフー株式会社などの一部のIT企業だけが複業を容認していた時代です。
しかし2016年2月にロート製薬が複業を解禁したことによって、金融やメーカーなど伝統的な文化が残る会社も複業解禁を検討するようになりました。その2年後の2018年には厚労省がモデル就業規則内の「原則副業禁止」を「副業容認」に変更しました。
このことから2018年は副業解禁元年とも呼ばれ、一気に副業・複業の認知度が上がりました。私が「複業の教科書」という本を出版したのもこの頃です。これらの出来事から、2016年〜2018年はハイプ・サイクルの黎明期にあたる時期といえるかと思います。
そして2020年にはコロナの影響もありリモートワークが進み、自由に時間を使える人が増えたことで複業を始める人が急増しました。コロナによって複業への期待を持った方々が複業に挑戦し始めるようになったこの時期がハイプ・サイクルにあたる流行期です。そして2021年はハイプ・サイクルの幻滅期に入っていると感じています。
日本の複業ピークはもう過ぎた?
──それはつまり、複業のピークは過ぎた、と。
そうです。この5年間で複業に挑戦した多くの方が気づいたことは「複業って大変!」という事実だったのではないかと思います。複業は何かスキルを持っていないと始めることができず、専門性が蓄積されにくい日本企業で働く人にとっては、実際は簡単でないことにみんなが気がつき始めたのです。複業に挑戦したものの、時間の切り売りになってしまい、割りに合わないと感じて辞める人が結果的に続出することとなりました。
──複業の現実を痛感した人が増えたことによって、幻滅期に入ったということですね。とはいってもまだまだ複業を容認している企業は少ないという現状もまだまだありますよね。
日本は何事も政府が義務化しないと、なかなか変わらないという現実があります。半強制で政府が「副業の容認」ではなく「専業を禁止」しない限り、複業が当たり前になる日は遠いかもしれませんね。
そういう意味では長野県の事例はもっと注目されるべきだと思います。長野県では5年ほど前から「一人多役」型の地域社会づくりを推進しています。人口が減り、仕事の担い手が減っていることを受け、県が複業を推奨しているんです。地方から面白いパラレルワーカーがでてきているのはそういった県独自の取り組みの成果だと思います。
──地方でこそ、複業人材が求めらているのですね!
地方企業の複業はコロナ以降ますます増えているように感じます。例えばSkill Shiftという自分が持っているスキルで地域貢献ができるマッチングサイトなどでは、地方自治体を支援する複業サービスも増えているので引き続き注目していきたいなと思っています。
複業の仕方、選択肢は無限にある
──これから複業を始めようとしている方もまだまだいることかと思います。複業に対して寛大ではない会社・上司を持つ人が複業を始める時に気をつけた方がいいことなどはありますか。
複業を始める方には、複業をやっていない人(本業に専念している人)よりも本業で結果を出すことにこだわってほしいと思います。でなければ上司の理解を得るのは難しいでしょう。本業でしっかりと成果を出した上で、複業を何のためにやっているかをきちんと説明できるようにしておくことをおすすめします。
──会社が複業禁止の場合はいかがでしょうか。
大手企業などで複業禁止の場合、ルールを変えるのは個人では難しい場合も多いかと思います。それであれば、複業が可能な会社に転職することも1つの選択肢です。
複業は自分のためにやることです。思いを持って堂々とやっていることを会社の人に言えない、理解してもらえないのは辛く、また会社にとってもそれは大きな損失です。思い切って転職を考えてもいいかもしれませんね。
ミレニアル世代、Z世代にとっては複業が当たり前の選択肢になっています。就職先の選ぶ基準として、複業が可能かどうかを確認する人は多くなりました。企業も優秀な人材の確保には、複業の規定を見直す必要があると思います。
──最後になりますが、複業を検討しているが何で複業をしたらいいのか分からないという方にアドバイスをお願いします!
何がしたいか分からない方にはまずは自分の中でやりたいこと(will)とできること(can)を棚卸することをおすすめします。自分のことを客観的に見るのは難しいと思うので、周囲の人に何を複業としてやってみたらいいと思うかを聞いてみてください。他者の視点を借りることで複業の可能性が広まると思います。
100人いれば100通り、もしかしたら1,000通りの複業の仕方や選択肢があると私は思っています。ぜひ自分に合った複業ライフをスタートさせてみてください!
編集後記
西村さんのインタビューを終えて、「西村さんは複業の未来を信じている」と感じました。
たしかに、今は実際に複業を行うことは想像以上に大変だということが認知され、徐々に衰退期(幻滅期)に入っていることは、現場の肌感覚からも一致します。しかし、逆に言えば今後も複業を継続していく人が減ることはなく、安定期に向けた衰退期だとも言うことができます。
今回の取材を通して、西村さんの中に「日本を救う可能性があるのは『複業を通して磨かれる起業家精神』」と言うことが、読み取れるインタビューになったと思います。改めまして、西村さん、お忙しいところお時間をいただきありがとうございました!
執筆:松本佳恋
企画・編集:新井 勇作
デザイン:中山 亜希
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